1.医薬品(原薬)の開発とスケールアップ(基本的な考え方)
2.小スケール実験とスケールアップ製造の相違点
・小スケールとスケールアップのパラメータの比較と考え方、設定法
3.合成法、合成ルートの設定、考え方、注意点(ICH M7、化審法、その他)
4.スケールアップ実験するためのチェックポイント、考え方と原料、中間体の評価項目
(安全性、安定性、結晶多形、溶媒和他)とその対応策
5.スケールアップでの問題点(実際の経験から)と対応策
(1)開発初期(実験室~10Lスケール)の事例
・転位反応:1gから10gにスケールアップしたら転位反応が原因で目的物が得られなくなった。
(反応機構の理解)
・アスコルビン酸硫酸エステル誘導体の製造:1gスケールでは目的物が合成できたが、
10gスケールでは合成不可の結果となった。(中間体の安定性)
・カラム分離工程の回避:前臨床試験に進むことが決まり、カラム分離工程回避の必要性が出てきた。
(結晶性誘導体)
・ピリジン・無水硫酸錯体(硫酸エステル化剤)の合成:吸湿性が原因で目的物が得られないと
判断したが、逆に吸湿性を利用することで大量生産可能な方法を見出した。(目的物の物性の理解)
・ペントキシフィリン中間体の製法検討:文献を参考に実験を進めたが目的物は得られず、
実験結果に基づいて検討を進めたところ、簡単な製法にたどり着いた。(反応の理解)
・抗生物質の側鎖の製造:新合成法を考案し、特許出願までしたが、
中間体に安全性の問題あることがわかり、検討中止。(安定性は変えられない)
・五塩化リンによるクロル化プロセス:溶媒を変更したら反応が進まなくなった。(結晶多形の影響?)
・アルキルホルムイミデート類の合成:青酸ガスを使用しなければならない。(反応の理解)
・エステルの選択(アミノチアゾール誘導体):メチルエステル、エチルエステルの比較実験をして
相違点(物性)を確認、合理的な合成法に至った。
・その他
(2)パイロット試作(200~500Lスケール)での事例
・ジクロルアセトニトリルの製造:設備の性能を安易に考えて刺激性のミストが噴出した。
(反応の理解)・アミノチアジアゾール誘導体の製造:設備の性能を安易に考えて
オーバー反応してしまった。(反応後の安定性確認)
・塩酸ペンタゾシンの中間体の製造:スケールアップして中間体を大量合成したら分解してしまった。
(中間体の物性は変えられない)
・アミノチアゾール酢酸誘導体の製造:再結晶プロセスをスケールアップしたら目的物が得られなくなった。
(必ず原因がある)
・臭素化プロセスのスケールアップ:パイロットにスケールアップしたところ、反応開始を確認できず、
大きなトラブルに陥りそうになった。対処法を検討した結果、合理的かつ安全なプロセス開発に至った。
・撹拌速度の影響:アセトン/炭酸カリウム系でのアルキル化反応。(不均一反応の考え方)
・結晶多形の同等性:外部委託したら結晶形で同等性の問題が発生。(規格設定の重要性)
・その他
(3)パイロットから商用生産(2000Lスケール以上)での事例
・微量の添加剤の影響:2工程先の抽出・分液工程で問題(エマルジョン)発生。
(微量の添加剤の影響、原料のロット管理)
・PhaseIII試験後の製法変更:爆発性の中間体を経由するためスケールアップ製造できず
PhaseIII試験が終わってしまった。(反応の仕組みの理解)
・目標規格の原料が手に入らない:商用生産に入ろうとしたら原料が入手できなくなった。
(原料調査の重要性)
・設備変更して反応の本来の姿がわかった:パイロットまでGL、商用生産でSUSに切り替えたところ
錆が発生。(原料中の強熱残分の影響)
・アミノチアゾール酢酸製造のスケールアップ:パイロットまでは問題なかったが、
商用生産で乾燥機の選択を誤った。(安定型と準安定型)
・キャンペーン生産:スポット生産では問題なかったエステル交換反応を、キャンペーン生産に
切り替えたところエステル交換反応が進まなくなった。(種晶の影響)
・溶媒回収できる条件でプロセスを設計:溶媒回収しないと採算が合わなくなった。(発想の転換)
・残留溶媒の規格:商用生産に移行しようとしたら残留溶媒の問題発生。(溶媒和物)
・出発原料の製法に伴う問題(製法に伴う異性体混入の可能性)
(4)商用生産開始後の事例
・収量低下の逸脱:原料の溶解時間の影響(原料と溶媒の相互作用)
・技術移転:季節の影響まで考えていなかった。(湿度の影響)
・原料の純度をアップ:高純度の原料に切り替えた途端に逸脱(不純物除去の仕組み)
・乾燥時間の管理:順調に商用生産がスタートしたが、突然製品の乾燥時間が2倍(10時間→20時間)に
なった。(水和物の考え方)
・その他
6.まとめ、実験計画法による効率的なデータ収集
(1)スケールアップを前提とした実験計画の考え方
(2)スケールアップ前提の実験計画の考え方、データの取得法、活用法(事例を参考に)
・事例1:過酸化水素水による酸化反応(危険性回避)
・事例2:プロセスの短縮(7日近くかかるプロセス(反応→抽出→濃縮→晶析→乾燥)を2日に短縮。)
(3)その他
略歴
1979.04 和光純薬工業株式会社入社 東京研究所主席研究員
1991.10 大鵬薬品工業株式会社入社 工業化技術研究所所長・合成技術研究所所長
(この間、治験薬品質管理者(原薬)兼務)を経て、
2007.07 三菱商事株式会社入社 先端化学品本部技術顧問兼常熟力菱精細化工有限公司
(中国常熟市)研開部本部長
2008.07 株式会社エースジャパン入社、常務取締役山形工場長(この間、医薬品製造管理者兼務)
2015.04 株式会社三和ケミファ入社 医薬品事業部統括本部長 現在に至る
2016.07 個人事業主登録、製薬会社、原薬会社、ベンチャー、CROのアドバイザー業務及び
東京大学大学院薬学系研究科 薬学部研究員も兼務、 現在に至る